Race Results

<特別企画>T-foil ラダー



T-foil ラダーの登場
 2000年6月。イギリス南部の寂れた漁村、Beerに集まった14'ersは、一度はそのラダーを見に行ったはずだ。
 世界選手権のためにシアトルから新型ラダーを持ち込んだボートデザイナー、Paul Bieker氏の鮮やかなグリーン色の船の周りには、人だかりが絶えることが無かった。

「なんじゃこりゃ!?」
 そこに集まった人達は同じ事を考えていただろう。

 ハルの幅ほどもあるウィング。誰もがその大きさに度肝を抜かれ、その印象を口々に語った。
「こんなウィングをつけて意味あんの?」
「いくらなんでも大きすぎだよ。」
「難しいことは分からんけど、とにかくカッコイイぞ!!

 議論をよそに、新しいラダーの効果は結果で示された。
 Int.14の発祥の国、イギリスで開催された世界選手権にも関わらず、優勝をさらっていったのは、新型ウィングラダーを装着した無名のアメリカ人スキッパー、Kris Bundy。
 表彰式では「今大会はアメリカのテクノロジーの勝利だった」とアナウンスされた。
 新しい時代の到来である。
 (写真上) 世界で最初のT-foilラダー。ラダーを「前後」に傾ける事でウィングの角度を調整する構造。

 当Webmasterが優勝したKris Bundyにウィングラダーについて感想を尋ねた所
「沈を起こした後にスターンから登りやすいヨ。ラダー(はしご)みたいに登るんだ。」との事。
「マジかよ?日本人には絶対必要じゃん!」(本気^^;
 日本チームに話しても誰も相手にしてくれなかったのは言うまでも無い・・・。

広がりをみせるT-foil

 Beerから一年半後、2001年11月には大西洋に浮かぶ島、Bermudaに多くのT-foilラダーが集まった。
 Beerでは軽風化でのレースであったのに対し、Bermudaは15m/sの強風下、多数のリタイヤが出る恕強風の中でもT-foil付きの船が活躍し、T-foilを装備したベテランセーラー、サンフランシスコのZach Berkowitzが優勝を手にした。

 1年半前にはシアトルに2艇しかなかったT-foilラダーも、2001年にはトップセーラーを中心に徐々に広がりをみせており、トップ10艇中、7艇が装備するに至った。
 もっともT-foilを装備しているのは有名なベテラン選手が多く、上位にT-foil付きの船が集まったのは「T-foilを装備したから速かった」のか、「速いセーラーがT-foilを装備したから速かった」のか判断は難しい。
 T-foilを導入した国は、アメリカだけでなく、イギリス、カナダにも広がっているが、オーダーメイド生産の為なかなか手に入れる事は難しいのが実状だ。

 BeerでのT-foilの使用は実験的な側面で見られがちだが、Bermudaでも続けてT-foil艇が勝利した事で一気に需要が増し、さらに手に入れるのが難しくなる可能性もある。
 世界選手権後に中古のT-foil購入を試みたが「いくら金を積まれてもT-foilは売りたくない」という声があちこちから聞こえた。
 2002年には量産モデルの生産が開始されているため、少しは状況が改善される見込みであり、夏には日本でも3艇のT-foil艇がお目見えする予定である。

(写真右)優勝したZachの船(USA1137)。デザインはZach用にカスタムしたBieker2/Z。
 ラダーをセットした状態でのウィングの位置に注目




 バミューダではT-foilの機能についても進化していた。

 ウィングの形状・大きさについても、試行錯誤を続けているようだが、初期のモデルと比べて若干小さくなっているように見える。

 また、ウィングを「前後にずらす」ことにより角度を調整していた初期のラダーから、ウィングだけが回転し角度を変えるタイプに取って代わられた。
 ラダー上部に通じている金属の棒(写真ではバネのついている部分)を押したり引いたりすることで、ウィングが回転し角度が変化する。

 セーリング中はレグによってウィングの角度を調整して走る。
 クローズホールドではハルの抵抗を少なくするためウィングを上に向けバウをしっかり沈めて走り、スピンを張ったリーチングでは、ピッチポール(バウ沈)を避ける為、ウィングを下に向けてバウを浮かせて走るわけだ。

(写真左)ZachのT-foilラダー。
 関係ないですが、奥に見える船は島間を行き来するフェリー。
 ハーバーまでの通勤に毎日利用させてもらいました。
(写真下)勝手にゴソゴソ人の船を覗き込む日本チーム。
 決してドロボーしようとしている訳ではありません。



T-foilの効果

 T-foilはフネにどのような効果をもたらしているのか?
 実際のところ、開発者や実際に乗っているセーラーも明確な答えはまだ分かっておらず、想像の域から脱していないようだ。

 2001年Bermudaで2位だったZeb Erriot氏に聞いてみても「T-foilをつけても、実際に速いかどうか違いは分からない。ボートハンドリングについても、違和感はない」と語る。

 まず、単純に想像できるのはボートのピッチング(前後のゆれ)を抑えるという事。
 だが、確かにピッチングは収まり船は安定するのだろうが、ラダーの真ん中に大きなウィングを付ける理由はどうしてだろうか?
 ボートのピッチングを抑える為にはハルが起こす水流の乱れが少ないところ、つまり、ハルから出来るだけ遠い位置(ラダーの先端)に、より小さなウィングを着けた方が抵抗も少なく効率が良い。
 モスがピッチングを抑える為にラダーの先端に小さなウィングを付けているのはこの為である。

 デザイナーのPaul Bieker氏によると、ピッチングを抑えるため、ラダーの先端にウィングを付けるとその大きな負荷にラダーが耐え切れないという。
 また、巨大なスピネーカーでカッ飛ぶInt.14での場合は、いくら大きなウィングを付けていてもピッチポール(バウ沈)を避けることはできない様だ。

(写真上)Zeb Erriot艇(GBR1460)のT-foil


(写真下)Zeb Erriot艇(GBR1460)。デザインはBieker 3(セルフタック)。
バウデッキが少しへこんでいるのはセルフタックジブを装備しているため。
現在は、神奈川県江ノ島YHに置いてあります。

 ではなぜ?水面からできるだけ深い位置ではなく、水面に近い位置に大きなウィングを?
 Paul Biekerが考える理由は別のところにあるようだ。

 ボートスピードは引き波の大きさ(周期)で制限される。
 水線長が長いほど船が速いと言われるのはこれに由来する。
 Int.14も高速化しようとすれば水線長を長くすれば良いのだが、「14」というだけ14feet以上の長さにすることはクラスルールで許されていない。
 このハルの幅に近い大きなT-foilを水面のすぐ下に配置することで、スターンで生じる引き波を抑制させて水線長を長く見せかける効果があるという訳だ。
 誰もが思い付かなかった新たな発想でブレークスルーは起こった。

(追記)ボートデザイナーでもあり、T-foilラダーの開発者であるPaul Biker氏は、現在アナポリスでAmerica's Cupに出場するOracleの船の建造に携わっている。
 興味のある方は、PROFESSIONAL BOATBUILDER誌(December/January 2002) の特集「Bieker's Boats」pp.68-83に、最新のInt.14ボートデザインやT-foilの読み応えのある記事が掲載されています。
http://www.proboat.com/

市民権を得たT-foilラダー


 過去2回の世界選手権でT-foilを装備した船が優勝していることに焦りを感じている人達もいた。
 T-foilラダーは生産が始まったプロダクションモデルで約600£(11万円以上)。ボート価格の上昇を引き起こす原因となる。
 常に進化を続けるため、次々と船を買い換える14セーラーにとって、ボート価格の上昇は悩みのタネだ。 既に、収入の少ない若いセーラーが育たないという「高齢化」問題も生じている。

 Bermudaワールド終了後から毎月100通を越える激論がメーリングリスト上で交わされた結果、2002年2月にはオーストラリアから、T-foilの禁止を求める緊急提案が行われた。

 しかし、3月にインターネット上で行われた各国協会による投票の結果、3分の2以上の国の承認を得られることができず、この提案は否決。
 ルールの上でも事実上認められることとなった。

 T-foilは一過性の流行に終わるのであろうか?
 これはまだ誰にも分からないが、常に進化を続けるInternational 14の未来の姿を想像させる。
(写真上)整備中のカナダのT-foil艇。ラダーをつけるのにスターンを上げなくてはならないので一苦労。
(写真下)ウィングを操作する為のシートが通るので、ラダー周辺の取り回しはややこしい。


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